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東京高等裁判所 昭和40年(行ス)8号 決定 1965年10月30日

抗告人 リーダー機械株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

本件記録および取寄にかかる東京地方裁判所昭和三八年(モ)第一二、〇五六号緊急命令申立事件記録(これに添付された同庁昭和三九年(モ)第一、六三七号過料事件記録ならびに当裁判所昭和三九年(ラ)第四一〇号同抗告事件記録を含む。)によれば、以下の事実が認められる。

すなわち東京地方裁判所は、申立人中央労働委員会、被申立人本件抗告人間の昭和三八年(モ)第一二、〇五六号緊急命令申立事件について、労働組合法第二七条第八項にもとづき、同年九月一三日、「被申立人は被申立人を原告とし、申立人を被告とする当庁昭和三八年(行)第五四号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が被申立人に対してなした中労委昭和三六年(不再)第三一号不当労働行為再審査申立事件の命令のうち『被申立人は、田中義敏を原職又は原職相当の職に復帰させ、解雇から復職までの間に同人が受けるはずであつた諸給与相当額を支払わねばならない。』との限度で、これに従わなければならない。」との緊急命令を発し、次いで本件抗告人(右被申立人)の右緊急命令取消の申立により昭和三九年四月二三日、「当裁判所が申立人中央労働委員会、被申立人リーダー機械株式会社間の当庁昭和三八年(モ)第一二、〇五六号緊急命令申立事件について、同年九月一三日にした緊急命令のうち、『解雇から復職までの間に同人が受けるはずであつた諸給与相当額を支払わねばならない。』とある部分を『同人に対し四〇万円及び昭和三八年七月から復職するまでの間毎月末日限り二万円を支払わなければならない。』と変更する。」との決定をなし、右緊急命令及び変更決定はいずれも抗告人に送達された。ところが抗告人は右緊急命令を履行せずこれに違反したので、前同裁判所は昭和三九年七月一六日抗告人を過料二〇万円に処する旨決定をなしたが(以下これを第一回過料決定という。抗告人はこれに対し即時抗告を申立てたが、当裁判所において昭和四〇年五月一二日右抗告が棄却された。)、抗告人は第一回過料決定後も依然前記緊急命令を全く履行しないので、原裁判所はさらに昭和四〇年六月二二日抗告人を過料七〇万円に処する旨の原決定をなした。

以上の事実を認めることができ、この認定に反する資料は存在しない。

そこで本件抗告理由をみるに、抗告人の主張は要するに、中央労働委員会の本件救済命令が事実認定の過程において公正手続の要請に反しており、実質的にも事実認定および法律判断を誤つたものとし、これにもとづいてなされた本件緊急命令も違法であるから、その不履行に対して過料を科した原決定は取り消されるべきものであるというにつきるところ、緊急命令、すなわち労働組合法第二七条第八項にもとづき裁判所によりなされる決定は、使用者に送達されることにより直ちにその効力が発生し、同条同項所定の当該裁判所による取消変更以外に不服申立の途はなく、右取消変更がなされない限り使用者はこれに従う義務があり、これに違反すれば同法第三二条所定の過料の制裁を免れることはできないものである。従つて緊急命令が違法であるとの主張は、その違反による過料決定に対する抗告の理由とはならないことは明らかである。本件において前認定の昭和三九年四月二三日の変更決定以外に本件緊急命令の取消変更がなされたことは認められず、原決定は右変更決定の後である第一回過料決定以降原決定当時までの緊急命令違反による過料決定であるから、抗告人の主張は理由がない。

抗告人は第一回過料決定があつたのにかかわらず、なおも原決定まで一一カ月以上作為の命令である本件緊急命令を履行しなかつたものであることその他本件記録により認められる一切の事情を考慮すれば、労働組合法第三二条所定金額の範囲内において原決定の科した七〇万円の過料金額は相当と認められ、そのほか、原決定を取り消すべき違法事由は見当らない。

よつて本件抗告を棄却すべきものとし、抗告費用につき非訟事件手続法第二〇七条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷部茂吉 浅賀栄 小堀勇)

(別紙抗告の趣旨および理由省略)

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